熱烈な郷土愛で再建成るか?
東京や大阪などの大都市と違い、地方では百貨店・デパートに対する愛着や信頼、ブランド力などはけた違いです。たいていの百貨店はその土地の老舗中の老舗で、立地も中心商店街のさらに一番中心に位置し、その土地の人からは絶大な信頼を得ています。「あそこで買えば間違いがない」信頼から、大切な贈り物をするときは必ずその百貨店で買い、包み紙や紙袋などは周囲の人々から羨望のまなざしで見られることさえあったとか。
市民からのそんな信頼や愛着が日本一大きい百貨店・デパートはどこか?といえば、鹿児島にある山形屋ではないかと思います(※個人的意見)。そもそも鹿児島県民は郷土愛が非常に強いことで知られています。明治維新の立役者となった薩摩藩のホコリがあるのか、とにかく熱烈な郷土愛を持っている人が多いのです(※個人的経験)。ちなみに2024年に明治安田総合研究所が行った「地元愛に関するアンケート調査」によれば、鹿児島県が地元愛の強さ全国一位だったそう。(※似たような調査は他でもやっていてそちらでは必ずしも一位ではない調査もありますが、少なくとも上位には来ています)
鹿児島一の繁華街・天文館にある老舗百貨店・山形屋への愛情も他県民から見ると並々ならぬ物を感じます。1751(宝暦元)年に創業した呉服店が前身という歴史を持つ山形屋さんは、名前からもわかるとおり元は山形県庄内地方から薩摩に移住した岩元源衛門さんが始めたもの。しかし代々薩摩のために貢献し、時には人々の命まで救ったエピソードもあるほど、県民に信頼され愛されていると言っても過言ではありません。それは個人のブログやSNS投稿でも、山形屋に関する投稿は熱量が一段上のように感じることからもわかります。
いちばん愛を感じたのは2024(令和5)年に山形屋が経営難から事業再生ADRによる経営再建を申請したときでしょうか。メインバンクの鹿児島銀行はともかく、県知事までが県としての支援を表明。他の県の百貨店とは大きな違いです。X(旧Twitter)でも「老舗百貨店の山形屋」が一時トレンド入りしたほどで「#頑張れ山形屋」「#山形屋を救おう」などのハッシュタグも立てられたといいます。それだけ鹿児島県民に愛されているということなのでしょう。
さて、山形屋の特徴といえばまずはルネサンス風の立派な建物です。百貨店として最初の建物は1916(大正5)年に建てられた地上三階建てのルネサンス建築で、日本では3番目、神戸から西では最初に造られた本格的な百貨店でした。このときからシンボルとも言える屋上ドームがあったそうです。その後、第二次大戦の空襲により全焼したそうですが、苦労の末に復興。その後はモダンな雰囲気だったそうですが、1998(平成10)年に外装が改修され大正時代のデザインに戻され、シンボルの屋上ドームも復活したのだとか。
個人的に好きなのは7階にある「ふるさとレストラン山形屋食堂」ですね。最近ではデパートのレストラン街も自社経営でなく有名店などが入っていることも多いですが、ここは今となっては貴重な存在のいわゆる「デパートの大食堂」なのです。サザエさんとマスオさんがお見合いしたのはデパートの大食堂だったそうですが、そのころの夢が詰まっているのです(※ちなみにサザエさんがお見合いしたのは福岡の岩田屋デパート)。しかも他のデパートにはない高級感もあります。そしていちばんの人気メニューが「山形屋名物焼きそば 」と名付けられたアンがかかったタイプの堅焼きそばです。1958(昭和33)年からあるメニューだそうで、今でも客の4割が注文するといいます。私がいただいたときは4割どころか体感で9割の人が焼きそばを頼んでいたような気がします。そして実際に食べてみると、味がマイルドで優しくて懐かしい味わいでした。好みで卓上の酢をかけるとさらにおいしいそうですが、私はそのままで完食してしまいました(なんと写真を撮るのを忘れた!)。あまりに人気のためコンビニとのコラボ商品になったり、鹿児島空港の売店やレストランでも販売されているそうです。
また 1号館地階にある金生まんじゅうも山形屋のもうひとつの名物です。大判焼きや回転焼きなどと呼ばれるものに似ていますが、中身は白あんで外の皮がもう少しふわっとしています。こちらはなんと1951(昭和26)年から販売されているのだそう。
あと私が驚いたのは、複雑で迷路のような山形屋館内で自分の位置を見失ってしまい、いつの間にか山形屋友の会「七草会」のカウンターにたどりついてしまったときです。ご存じかとは思いますが多くの百貨店・デパートでは独自のカードや「友の会」的なものがあって、入会すると少しお得になったり特別なサービスが受けられたりします。この専用カウンター・サロンがだいたいどこの百貨店・デパートにもあるわけですが、正直今までそこに人がいる様子を見たことはありませんでした。ところが山形屋の友の会サロンのまず広いこと。そして驚くほどたくさんの人が席に座って順番を待っていたのです。あとでわかったことですが、じつはそのときちょうど更新時期だったらしく(TVでもCMが流れたいた)、それでたくさんの会員さんが訪れていたようですが、それにしても山形屋ではこんなに「友の会」などの会員サービスに登録している人がいるとは!!と心底驚きました。(そして用もないのに迷い込んで困っていた私を見て、店員さんがすぐに飛んで来て、無事迷路から脱出することができました。素晴らしい接客態度でした)
そんな山形屋さんですが、先に書いた通り経営難から事業再生ADRを申請して経営再建中です。新聞などを読むと再建は順調に進んでいるようですが、宮崎県日南市にある日南山形屋は規模を大幅縮小して1Fだけの営業になる予定とのこと(2025年春現在)。鹿児島県薩摩川内市にある川内山形屋はそのまま営業されるようですが、今後は色々な動きや不採算部門の撤退などがあるかもしれません。今まで自社営業だった売り場にも、一部EDIONと丸善が入ったようです。これだけ県民に愛されている山形屋さんはもはや鹿児島の文化のひとつですから、なんとか頑張って再建成功してほしいものです。【2021年10月訪問】