矢尾百貨店(埼玉県秩父市)

山奥で独自路線つらぬく百貨店界のレアキャラ

都会にあってもおかしくないほど堂々とした矢尾百貨店

秩父神社にお参りするついでに矢尾百貨店に寄ってきました。地方百貨店で個人的にいちばんご紹介したいのがこの埼玉県秩父市にある矢尾百貨店です。埼玉県は地方百貨店の宝庫ですが、とくにこちらの矢尾百貨店は百貨店業界でもかなりのレアキャラ。おそらく埼玉県民でも存在を知っている人はそう多くないと思います。

秩父の古いメインストリートにある矢尾百貨店。真ん中奥の方に見える。

秩父という土地をご存じない人のために少々ご説明しますと、埼玉県の西の果てにあり、山を越えれば長野や山梨がすぐそばという山奥の小都市です。東京都心のターミナル駅池袋から、西武線の有料豪華特急に乗って約1時間半、その特急の終点がこの秩父というわけです。大阪で言えば福知山あたりを想像して頂ければイメージが近いのではと思います。この町を「小京都」と呼べるのかよくわかりませんが、山奥にもかかわらず交易の地として古くから栄え、関東地方では歴史ある観光地のひとつとして知られています。そんな山奥の小都市に百貨店が!なのです。

看板の書体やシンボルマークもレトロでいいですね

そんな矢尾百貨店ですが、なんとその歴史は前身となる矢尾商店が1749年創業、江戸時代の寛延2年です! 最初は酒造店だったらしいですが、ほどなく呉服や食料品、雑貨類の販売をはじめたそう。正式に百貨店という形での営業許可が出たのは1970年だそうですが、江戸時代からほぼずっと百貨店・デパートのようなものだったわけです。まあ簡単に言ってしまうと、秩父の老舗名店ですね。ひとつ面白いのが、この矢尾百貨店は日本百貨店協会にも加盟していないこと。完全に我が道を行く独自路線です。そのため全国統一の百貨店商品券は使えませんが、それ以外はごく普通の百貨店です。面積こそ小規模ですが、百貨店ならではの催事も開催されています。定番の北海道フェアなどもやってるので大したもんです。

入り口前では百貨店らしく子供向けのイベントが開催されていました

雰囲気としては、地方によくある小規模な百貨店そのものです。1Fは食品売り場で、商品としてはやはり老舗だけに普通のスーパーよりはちょっと上のクラスを狙った感じでしょうか? パン屋は一般的なデパートでよく見るリトルマーメイドが入っていました。観光客向けも視野に入れているのか、地元の名産品が多く並んでいるのが印象に残りました。観光の土産になりそうな地元名店のお菓子類や酒が充実しています。ところで、この酒販コーナーで一番目立つようにずらり並べられているのが「秩父錦」という日本酒。この秩父錦こそ、この百貨店のご先祖様が江戸時代に作り始めた酒で、現在では別会社になっているそうですが、矢尾百貨店グループの一員の酒だというわけです。ちなみに建物の裏手には、酒蔵当時の建物が残っていて「秩父錦創業蔵跡」という碑も建ってます。

百貨店裏手にある秩父錦創業蔵跡の碑
上階からは武甲山がバッチリ眺められます

建物は5階まであり、エスカレーターの手すりはグレー。5階にはレストランもあります。お子様ランチは残念ながらなかったですが、ちびっ子ラーメン・ちびっ子カレーがあるところはやはり家族連れに優しい百貨店。この日は屋上が閉鎖されていたのですが、かつては屋上にもゲームコーナーや子供用乗り物があったようです。

駐車場もたっぷり用意されている

しかし何よりも感心するのが、やはりこの秩父という土地で今でも百貨店が存在していること。いくら土日には観光客が多少来るとはいえ、人口約6万人という山奥の小都市で、まあよくここまで営業し続けてきたなぁというのが正直な感想です。このエリアには中規模のショッピングセンターもありますし、今どきのスーパーやドラッグストア、ホームセンターなどもありますから、絶対的に安泰というわけではないとは思いますが、やはり地域の人の信頼とさまざまな努力があったのだと思います。そういえば矢尾百貨店はInstagramやFacebookもやっていて、Yahooショッピングや楽天市場などにも出店しています。そういう努力もしっかりされているというわけですね。地方百貨店・デパートマニアとしては、今後も頑張って欲しいと思います。とりあえず応援の意味も込めて秩父錦とお菓子を買って帰りました。

正面玄関

ところで矢尾百貨店を語るときに思い出すのが、かつて岩手の花巻にあったマルカンデパート(マルカン百貨店)です。こちらも花巻の老舗として知られていたものの一度閉店したのですが、その後名物だった大食堂が復活しているという話です。そちらも近々行ってみたいと思っています。

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