スズラン百貨店(群馬県前橋市)

しぶとく残る庶民派カタカナ百貨店

前橋にあるスズラン百貨店に行ってきました。前橋の旧中心街にあるスズラン百貨店の第一の特徴は、この「スズラン」という優しそうな花の名前ではないかと思います。

百貨店の名前というとほとんどが「三越」「高島屋」「岡島」など、創業家の名字や前身となる商売(呉服屋さんとか)の屋号に由来しているケースがほとんど。花の名前をつけている百貨店はここと東北地方にある「さくら野百貨店」だけです。さらにカタカナとくれば、全国で唯一の存在です。(※百貨店協会に加盟している70数社のうちでもカタカナ名は秋田県の「タカヤナギ」、兵庫の「ヤマトヤシキ」、大分の「トキハ」、そして沖縄の「リウボウ」だけ(あと「ジェイアール○○」もありますが、それはさて置き)。看板を見ていただけるとわかりますが、ロゴの前にある「S」のようなマークはスズランの花を模したものですね。名前についての公式な由来はわかりませんが、スズランが昔から欧米で「幸運が訪れる花」として広く知られていたので、そのあたりが由来なのだと推測しています。

さて、そんな優しそうなイメージのスズラン百貨店ですが、どんな百貨店なのかというと……う~ん、正直言ってそれほど強い個性はありません。現在スズランはこの前橋店と高崎店の二店舗しかありませんが、前橋・高崎どちらも特に変わった作りになっているとか、ゴージャスだとか、ユニークな売り場があるとか、変わった取り組みをしているとか、そういうことは一切なく、売り場自体はごくごくスタンダードで普通です。悪く言ってしまうと少し地味目…かも。定番の生ジューススタンドやデパ地下食料品売り場もありますが、売り場面積も他の百貨店に比べて広いとは言えません。

アーケードのある中央通り商店街の脇に建つスズラン百貨店

一般的に地方百貨店というと、江戸時代から続くような歴史をもち、地域一番の高級さをウリにしているところが少なくありません。1Fには「シャネル」「ルイ・ヴィトン」といった海外有名ブランドが入り、建物もゴージャスで高級感があふれている…なんてところも典型的な地方百貨店の姿。しかしスズラン百貨店にはそんな高級感はなく、気さくで庶民的な雰囲気です。

しかしこれには理由があります。そもそもスズラン百貨店の創業は1952(昭和27)年。戦争から帰ってきた創業者が裸一貫からスタートして、約八畳ほどの小さなスズラン衣料品店を開いたのが始まりだといいます。太平洋戦争後のスタートですから、歴史としては新しい部類です。そこから苦労を重ねて百貨店へと変貌を遂げるわけですが、他にライバル店が多かったことからいたずらに高級路線を追わず、地域の実情に合わせて「大衆百貨店」路線をとっていたのです。

アーケード側の入り口はこんな感じ

ところがバブル崩壊とライフスタイルの変化によって百貨店の高級路線がかえって自分たちの首を絞める厳しい時代になりました。じつは前橋市街地にはかつて「前三百貨店」「前橋西武」「ニチイ」などのライバル店があり、高崎市街地にも「高島屋」「藤五デパート」「中央デパート」「八木橋」「十字屋」「ダイエー」「ニチイ」などがあったにもかかわらず、ほとんどのライバルはすでに撤退しています(※高崎の高島屋だけは現在も営業中)。にもかかわらずこのスズラン百貨店が生き残っているのは、この身の丈に合った大衆路線のおかげだったのかもしれません。ちなみに高崎店は2024年春に古くなった建物を建て替えて新店舗をオープン。また、前橋店も近い将来に市街地再開発とともに再出発予定のようです。全国の地方百貨店が続々と縮小したり姿を消し続けている中、新店舗で再出発できるというのは貴重な存在なのかもしれません。

入口脇の自転車置き場も大衆百貨店の証

ちなみに群馬県にはこのように裸一貫から立ち上げて全国に知られるようになったチェーン店が多いのが特徴です。電気店として有名な「ヤマダ電機」をはじめとして「ビッグカメラ」や眼鏡の「JINS」、カラオケの「まねき猫」、作業着の「ワークマン」、たこ焼きの「築地銀だこ」(※銀だこを築地発だと思っている人が多い!)などなど、枚挙にいとまがありません。スズラン百貨店もスタイルこそ違いますが、裸一貫からここまで来た創業者パワーが生きているのでしょうか。

とはいえ、この百貨店衰退の流れの中、スズラン百貨店も盤石であるとは言えないと思います。群馬にも郊外には巨大ショッピングセンターが乱立し、IKEAやCOSTCOなども参入しています。前橋も高崎もスズラン百貨店のある市街地は車でのアクセスが不便で、駐車場も余裕があるとは言えません。なんとかこの昭和レトロな百貨店が生き残ってくれることを祈っています。

以前は使われていたらしい立体駐車場の痕跡が建物裏に

ちなみにこのスズラン百貨店には特徴がないと書きましたが、じつは個人的には出張で近くに行くたびスズランに寄りたくなる大きなメリットがあります。それは、あのガトーフェスタハラダのラスクがほぼ並ばず買えること。手土産などで都内デパートでも大人気で長蛇の列が絶えないガトーフェスタハラダですが、じつはこちらも発祥は群馬県で、前橋と高崎のスズラン百貨店にも出店しているのです。そして、ここなら空いているため(ほぼ)並ばず買うことができます。ハラダのラスク好きな人はぜひ!【2024年2月訪問】

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